トラッキングエラー

 パッシブ運用の投資信託は、日経平均株価東証株価指数などのインデックスをベンチマークとし、そのベンチマークと同じ投資効果を目指して運用されます。ただ、100%連動することはなく、多少のズレが生じます。これをトラッキングエラーと言います。

 

 

パッシブ運用の良し悪しを計る基準

 アクティブ運用の投資信託は、基本的に日経平均株価などをベンチマークとして、それをいかに上回る成績を上げられるかによって、運用の巧拙が判断されます。例えば、ベンチマークが10%上昇しているときに、基準価格が15%上昇する。逆にベンチマークが10%下落しているときには、基準価格の下落を5%に抑える、というように、ベンチマークが上昇しているときはそれを超える上昇率を、逆にベンチマークが下落しているときにはそれよりも下落率を小さく抑えられるのが、優れたアクティブ運用の投資信託であると判断されます。

 これに対してパッシブ運用の投資信託は、日経平均株価などのベンチマークに連動した運用成績を目指します。いかにベンチマークを上回るかではなく、いかにしてベンチマークと同じ運用r成績を実現できるかが、評価基準になるのです。一般に、「パッシブ運用は株価インデックスに連動するもの」というイメージを持っている人が多いですが、「ベンチマークに連動した運用成績」というのは、あくまでもそれを目指しているだけのことで、100%確実に連動するわけではありません。パッシブ運用を標榜しておきながら、ベンチマークへの連動性が低い投資信託も存在します。

 

 なぜ、実際の運用成績とベンチマークの間に乖離が生じるのでしょうか?

 

 まず、パッシブ運用の投資信託といっても、連動目標であるベンチマークと全く同じポートフォリオで運用するわけではないことが挙げられます。もちろん、ベンチマークと全く同じポートフォリオが組めるのであれば、ほぼ確実にベンチマークに連動しますが、そういう運用は極めて困難なのです。

 色々理由が考えられます。

 まず、手間とコストの問題です。日経平均株価への連動を目指すパッシブ運用なら225銘柄ですが、東証株価指数に連動するパッシブ運用のポートフォリオを組むとなると、2066銘柄に投資しなければなりません。それだけ大きな資金量が必要ですし、何よりも2066銘柄を組み入れたり、解約が生じて売却したりするには、非常に手間がかかります。したがって、大半のパッシブ運用は、少数銘柄で連動目標である株価インデックスに連動するようなモデルを構築した上で、投資するのです。したがって、そのモデルの出来が悪いと、連動目標である株価インデックスへの連動率が下がってしますケースがあります。

 ふたつめに売却コストの問題があります。これは、組み入れ銘柄を買ったり売ったりするのにかかるコストで、投資信託である以上、このコストを避けることはできず、したがって、コストの分だけパッシブ運用のrたーんはベンチマークよりも低くなる傾向が見られるのです。

 このような事情で、パッシブ運用の成績はベンチマークから多少なりとも乖離します。これを「トレッキングエラー」と言います。

 

 

β値に注目する

 では、

 トレッキングエラーが高いのか、それとも低いのかを見るには、どうすればよいのでしょうか?

 

 最も簡単な方法としては「β値」に注目するという手があります。β値とは、投資信託の運用成績が、株価インデックスなど市場全体の値動きに対して、どの程度、反応するのかを示したものです。仮に、β値が1.5の投資信託があるとしたら、ベンチマークが10%上昇した場合、その基準価格が15%上昇することを意味します。

 したがって、ベンチマークに対して高い連動率を持つかどうかを判断する場合には、このβ値が1.0に限りなく近いかどうかをチェックします。仮に1.05とか、0.95というように、ほぼ1.0に近いβ値をとっていれば、それは連動目標であるベンチマークとほぼ同じ値動きをしていると考えられます。

 

 最近では「スマートベータ」といって、パッシブ運用ではあるけれども、連動目標とするベンチマークが単純な市場平均型のインデックスではなく、一定のルールによって市場平均型とは異なる性質を持った株価インデックスを作り、それに連動させるパッシブ運用を行うタイプの投資信託も登場しています。