資産クラス分散を上手に行うために必要なこと

 長期的な資産形成には、資産クラス分散が必要不可欠です。資産クラス分散とは、国内外の株式、債券、コモディティ、不動産というように、複数の資産クラスに資金を分けて投資することです 。

 

自分が今、どういう資産に投資しているか知っておく

 投資信託を活用して長期的な資産形成をするためには、まず自分が持っている資産の中身を把握しておく必要があります。

 「ポー トフォリオ」の語源はもともとは、「紙ばさみ」のことでした。昔の人たちは、紙ばさみに自分が持っている有価証券を挟んで持っていたことから 、 自分が持っている資産の中身をポートフォリオと称するようになったのです。投資信託を選ぶためには、何はともあれ自分のポートフォリオを把握しておく必要があります。

 たとえば、全く投資をしたことがないという人でも、預貯金に資金を置いてあると思います。預貯金の利率は極めて低く、このままではなかなか資産が増えないばかりか、インフレリスクのヘッジも困難になってしまいます。なので、公社債投資信託は買わなくてもよいでしょう。そもそもこの超低金利では、公社債投資信託にしても預貯金にしても、リタ ー ンには大差ありません。

 したがって、公社債投資信託以外の投資信託で、インフレリスクをヘッジできるものを選ぶようにします。 株式の個別銘柄を持っている人は、国内株式型投資信託を持つ必要はありません。もちろん、個別銘柄投資の場合、企業業績をはじめとして個別材料が株価を左右する部分はありますが、やはりマーケット全体の市場心理によって株価が左右される部分も大きいので、個別銘柄を持つのも、国内株式型投資信託を持つのも、基本的には同じです。

 別の言い方をすると、個別銘柄に投資している人が国内株式型投資信託を持つとダプルで日本株式のリスクを抱えることになります。もし株式型投資信託を持つのであれば、国内株式型投資信託ではなく海外株式型投資信託を持つべきでしょう。 同様に外貨預金や外貨建て債券を持っている人は、海外債券型投資信託に投資する必要はないといえます。

 

できるだけ簡単なポートフォリオを目指そう

 資産クラス分散のメリットは、特定の資産クラスのリスクをちらせることです。

 たとえば、国内株式市場と国内債券市場に投資しているとしましょう。理屈を言うと、国内株式市場が下落すれば、債券市場は値上がりします。なぜなら投資資金は、株価が下落すると、より安全な資産に向かって動くからです。安全な資産といえば債券であり、債券価格は上昇します。つまり、株式と債券を保有することによって、株価が下落したとき、その損失を債券価格の値上がりによってカバーすることが期待できるのです。

 また、金(GOLD)のような貴金属を保有するという手もあります。金は、「資産のラストリゾート」と言われ、リーマンショックのようなマーケットの大混乱が起きると、買われる傾向があります。金は、世界共通の価値が認められており、しかも株式や債券のようなペーパー資産のように、それを発行する政府や企業の信用力を裏づけにしているのではなく、そのモノ自体に価値がある実物資産です。それだけに、金融恐慌などが起こると、非常に強みを発揮します。このようなときは、株式市場だけでなく債券市場も暴落状態に陥る恐れがありますが、ポートフォリオに金を保有しておけば、ペーパー資産の値下がりリスクをある程度、金価格の値上がり益によって力バーできる可能性が高まります。

 あるいは、同じ株式でも、日本だけでなく米国や欧州、インド、中国といったように、世界中に分散させることでリスク軽減を図るという手もあります。

 このように、さまざまな資産クラスがあるわけですが、これらにすべて資金を分散させるのは、かなり大変です。たとえば国内外の株式、国内外の債券、国内外のREIT(不動産投資信託)、コモディティだけで6つの資産クラスに分散投資することになりますが、問題は、どの資産クラスに、どの程度の比率で投資すればよいのか、ということです。これを、初めて投資信託を購入する個人に考えさせるのは、あまりにも酷です。それに、詳しくは後述しますが、定期的にポートフォリオを見直すのも、投資している資産クラスが増えれば増えるほど、大変な作業になります。

 したがって、個人が分散投資されたポートフォリオ保有する場合は、もう少し簡単な方法を考えるべきでしょう。 具体的には、バランス型の投資信託を購入することです。バランス型投資信託にもさまざまな種類がありますが、これを購入しておけば、1本の投資信託で、複数の資産クラスにも分散投資してくれます。初心者、経験者を問わず、保有するポートフォリオは、できるだけシンプルなものがよいでしょう。

 

*金の投資法は、先物取引現物取引、金価格に連動するETF、金鉱企業の株式を組み入れて運用する投資信託というように、さまざまな方法があります。したがって、自分のポートフォリオに金を組み入れるときは、どの方法が最も手軽に、かつ高い利便性を持つているのかを考える必要があります。金に投資するなら、金価格に連動するETF、金鉱企業の株式を組み入れて運用する投資信託が、流動性などの点からも、非常に利用しやすいと考えられます。

 

 

投資信託で資産を築くためのシナリオ

 では、実際のところ、どのようなポートフォリオでどのように運用をすれば、投資信託で資産を築くことができるのでしょうか。

 結論から言えば、そのシナリオは人によって異なります。なぜなら、運用に回せる資金も、運用に使える期間も、最終的な目標金額も、どのぐらいの値動きなら耐えられるのかというリスク耐性も異なるからです。

 大切なのは、自分自身がどうしたいのかという明確な意志を持って投資信託と向き合う、ということです。なんとなくおすすめ商品を購入したり、「増えたらいいなぁ」 と保有を続けたりということではなく、いつまでにい<らに増やしたいのか、そのためにはどの<らいの利回りが必要なのかといったことを逆算しながらシナリオを描くことが必要です。

 たとえば、「30年で2,000万円の資産をつくる」というゴールがあったとしましょう。この場合、同じ2,000万円が目標金額であったとしても、毎月5万円を利回り1%で積立運用するというシナリオもあれば、毎月3万円を利回り4%で積立運用するというシナリオも存在します。

 もちろん、ゼロから積立を行うのではなく、最初に50万円、100万円といったまとまった資金を出せるのであれば、 ゴールまでに必要な利回りはもう少し低くなります。このあたりは、現在の資産状況(ストック)と毎月の家計の状況(フロ 一 )も鑑みながら考えていきたいところですが、いずれにしても、こうしたシナリオに落とし込んで見て初めて「少しでも多く増えたらいいなぁ」といった漠然とした希望が、現実的な道筋となって 〝見える化 〟できるのです。

 なお、毎月いくらを年利回り何%で積立すると、何年後にい<らになるかをシミュレーションするためには、金融庁のウェブサイトにある 「資産運用シミュレーション」が便利です。

 

 

ポートフォリオ作成の実際

 さて、シナリオができました。では、このシナリオにある利回りを実現するためには、どういったポートフォリオを組めばよいのでしょうか。その手がかりとなるのが、年金積立金の管理・運用を行っているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が発表している資産クラスごとの標準偏差です。

 その表の「リスク(標準偏差)」を見ると、

 

 国内債券<海外債券く国内株式<海外株式 の順にリスクが高くなっていくことがわかります。

 

 高いリターンを狙うには、リスクの高いアセットクラスを多く組み入れればいい、ということが分かってきます。

 たとえばリスクをなるべく小さくしたいということであれば、預貯金や国内債券を中心にポートフォリオを組む必要がありますし、大きなリスクを取ってでも大きなリターンを狙っていきたいということであれば、国内株式や海外株式を多めに配分していくとよいでしょう。

 こうしたポートフォリオを参考にしながら、投資信託にまわせ る資金や運用できる年数、目標とする金額とのベストなバランスを図っていきましょう。このシナリオが完成すれば、あとはその資産クラスごとに最適な商品を選んでいけばよい、ということになります。