投資信託は長期保有が鉄則

 投資信託で資産形成をしたいのであれば、長期保有が鉄則です。商品によっては短期売買に向いているものもありますが、安定的に資産を増やしていきたいのであれば、上手に資産を分散させ、メンテナンスをしながら長期で付き合っていきましょう。

 

長期保有することの3つのメリット

 投資信託で長期保有をすることのメリットは大きくわけて3つあります 。

 一つ目は、「複利の力を利用することができる」ということです 。 複利とは、運用で得た利益を元本に組み入れてさらに投資に回すことで、「リターンがリターンを生む」状態にすることです 。これを長期で行えば行うほど、元本が同じであっても結果的に資産が増えやすくなります 。

 複利の反対で、利息を元本に組み入れずに運用していくことを「単利」と呼びます。手元に100万円の投資資金があったとします。仮に年率 10 %で運用ができたとすると、同じ年率10%であったとしても、年月が経てば経つほど単利と複利とで大きな差が開いてきます。30 年後には、単利の場合は400万円であるのに対し、複利の場合にはなんと1,750万円にも増えているのです。

 

 

単利と複利

 もちろん、年率10%というのは簡単に実現できる利回りではないかもしれません。しかしこうやって見ると、複利の力がいかに大きなものであるかが分かります。

 投資信託を購入する際は、分配金を受け取るか、受け取らずに再投資に回すかといったコースの選択ができる場合がほとんどです。また、商品によっては分配金を出さないという方針のものもあります。分配金を受け取らずに再投賣に回し、長期で保有することによって、こうした複利の力を味方にすることができます。

 長期保有のメリットの2つ目は、 「売買タイミングによる失敗を防げる」ということです。

 投資信託に限らず、株式や為替など値動きが上下するものを売買する際に、 「安く買って高く売る」ことを続けることは容易ではありません。プロの株式トレーダーや為替アナリストでさえ、正確な予測ができない世界ですから、私たちにとってはなおさら、正しくタイミングを読んで短期で売買を行い、利益を出し続けることは難易度が高いといえます。

 ー方、経済は短期的には浮き沈みがあったとしても、長期的には成長していく前提で成り立っています。特に、新興国株式の投資信託を購入する場合などは、そうした国々の大きな成長の波に乗るということが目的のはずです。こうした目的を実現するためには、日々の基準価額の上下に一喜一憂し、短期売買を繰り返すのではなく、長期保有によって経済成長の恩恵を受けるというスタンスで臨みたいところです。

 また、投資信託は積立投資に向いている金融商品です。証券会社でも銀行でも積み立てで購入できるプランがありますし、つみたてNISAや確定拠出年金といった制度面での後押しもあります。こうした積立投資の効果も味方につけたうえで長期保有をすれば、売買タイミングによる失敗は限りなく回避することができます。

 3つ目は、 「コストを下げることができる」ということです。
 最近では、ノーロードの投資信託も増えてきましたが、それでもまだ販売手数料が必要な投資信託も数多くあります。売却の際にも信託財産留保額が必要です。ETFJ-REITの場合には、株式と同じように売買委託手数料もかかります。売買の頻度が多いほど、投資資金が同じであってもこうしたコストはかさんでいくため、利益は出にくくなります。

 こうしたことから、投資信託で資産を築きたいのであれば、長期で保有することが合理的といえるのです。 なぜ、長期保有が鉄則なのでしょうか。それは、投資信託の基本的な構造を考えれば分かります。 投資信託の基本的な仕組みは、大勢の個人からお金を集め、それをひとまとめにしたうえで、国内外の株式や債券、短期金融資産、などに分散投資します。たとえば、 1人の個人が10万円ずつ持ち寄り、その人数が10万人になれば、100億円の資金が集まります。個人が10万円を手にして投資をしても、できることには限界があります。絶対的に資金量が少ないからです。でも、10万円を10万人から集めて投資すれば、投資の可能性は大きく広がります。要するに、スケールメリットがいかせるということです。

 そして投資信託を購入した個人は、購入するために出したお金の額が10万円でも1,000万円でも、すべて同じ条件のもとで運用されます。1,000万円を出した人のほうが、10万円しか出さなかった人よりも、得られるリターンが高くなることはないのです。もちろん最低購入金額を満たす必要はありますが、購入金額の多寡が問われず、すべての個人が平等な条件のもとで資産運用できるのが、投資信託の一番のメリットといってもよいでしょう。

 

長期投資とは何年くらいを指すのか

 では、長期とは何年のことを指すのでしょうか。
 たとえば「債券」の償還までの期間で考えると、以下のようになります。

 

  短期債・・・1年以内

  中期債・・・1年超5年以内

  長期債・・・5年超10年以内

  超長期債・・10年超

 

 次に景気サイクルで考えると、以下のようになります。

 

  キチン•サイクル ・・・短期(3〜4年)。在庫投資による景気循環

  ジュグラー•サイクル・・・中期(7〜12年)。設備投資による景気循環

  クズネッツ・サイクル・・・長期(14〜30年)。建設投資による景気循環

  コンドラチェフ•サイクル・・超長期(47〜60年)。技術革新による景気循環

 

 このように、ひとことで「長期」といっても、時間軸の考え方はさまざまです。債券の償還期間としては、10年は長期ですが、景気循環で言えば中期です。景気循環で「長期」と言えば、最長で30年までが入ってきます。

 では、個人が投資信託の長期投資を考えるとき、期間はどの程度が妥当なのでしょうか。 分かりやすい目安としては、健康寿命をひとつの区切りにするというものです。健康寿命とは、平均寿命ではなく、日常生活に制限のない寿命のことです。要するに健康で、誰のサポートも必要とせず、日常生活を送れる年齢といってもよいでしょう。 厚生労働省によると、健康寿命は男性が71.19歳、女性が74.21歳です。これに対して平均寿命は、男性が80.98歳、女性が87.14歳ですから、男性の場合で9.79年、女性の場合で12.93年は、場合によっては介護の必要が生じることになります。そうい う年齢になると、場合によっては自宅で独り暮らしも困難になるため、施設での生活なども想定しておく必要があるでしょう。そして、そのときにある程度の蓄えがあるかどうかが、よりよい老後の生活が送れるかどうかの分かれ目になるのです。

 身体が健康で、まだ十分に動ける状態のときは、定年になったとしても働く道を探し、その間は投資信託で運用を続けながらも、働くことによってキャッシュフロ一を稼ぎます。資産運用のゴールを、自分の健康寿命に合わせれば、どのくらいの年数を運用すればよいのかが、自ずと見えてくるでしょう。

 

 

長期投資を放置しない

 ただし、長期投資であればリスクは低いというのは間違いです。

 逆に株式やFXのデイトレーダーは、常に大きなリスクを負って取引していると思っていませんか。これは誤解です。

 もちろん、デイトレーダーの中には、フルにレバレッジを掛けてポジションを持っている人もいます。それは確かにリスクの高いトレードですが、デイトレーダーに「どうして短期でトレードするのか」と聞くと、決まって返ってくる答えが、「長期投資はリスクが高いから」というものです。

 デイトレーダーの人たちから見ると、長期投資は非常にリスクの高い投資法なのです。

 長期投資はリスクが低いと思っている人は、恐らくこう考えていると思います。
「長期投資すれば、目先で値下がりしても、放っておけばいつか戻るだろう。ただ、ひたすら我慢して持ち続ければよいのだ」。

 この考え方は非常に危険です。たとえば日本の株式市場が最高値をつけたのは1989年12月29日のことで、日経平均株価は3万8,915円でした。そして、バブル崩壊後の最安値は、2008年10月28日のリーマンショック後で、6,994円まで下落しています。今でこそ2万3,000円台まで戻してきてはいますが、日経平均株価は約20年をかけて、 82%も値下がりしたのです。

 20年といえば、立派に長期です。そうであるにもかかわらず、日経平均株価は82%も下落しました。「長期で保有すれば、いっか戻る」というのは、根拠のない期待に過ぎないことが、この事実をもって分かります。 また、ひたすら持ち続けていたのに、株式を発行している会社が倒産してしまったら、それこそただの紙切れになってしまいます。

 

 長期投資には、こうした将来の不確定要素によるリスクがつきまといます。

 

 たとえば高度経済成長期に銀行の株式を買った人が、その30年後に銀行業界の大再編が進み、かつては絶対に潰れないと言われた銀行がいくつも倒産することなど、想像さえできなかったでしょう。でも、実際にそれが起きてしまったのです。今は我が世の春を謳歌している企業が、30年後、40年後も残っているとは限りません。 そう考えると、長期投資は将来の不確定要素が多い分だけ、リスクが高いと考えることができます。だからこそ、その不確定要素を分散させるために、積立投資によって時間分散をしたり、資産クラス分散をしたりすることが重要です。

 

 

*よく定年退職をもって投資から降りる人がいます。つまり、それまでは投資信託などで運用していたのに、定年になった途端、元本割れリスクのない預貯金や債券に資金をシフトさせ、安定運用を続けていくということですが、これからは人生100年時代.平均寿命が延びているのに、60歳で定年になったら運用を止めるのは、得策ではありません。老後の年数が長くなればなるほど、途中でお金が尽きてしまう リスクにつきまとわれます。そのリスクを少しでも軽減させるためには、定年以降も運用を続ける必要があります。少なくとも、健康寿命に運するまでは、運用を続けるほうがよいでしょう。