注文の締切時間

 投資信託の基準価額は1日に1回しか算出されません。原則として、その日の終値をベースにして、組入資産の時価総額を計算し 、 基準価額が算出されます。そして、 買付にしても解約にしても、投資信託の注文は締切時間が決められており 、 その締切時間まで注文を出さないと、翌営業日の基準価額での約定になってしまいます。

 

14時30分前後が注文の締切時間

 一般的に、国内の株式市場に投資する投資信託の場合、注文の締切時間は14時30分前後に設定されています。購入するにしても解約するにしても、この時間にまで注文を出せば、その日の終値で計算された基準価額でもって、購入、解約の措置が取られます。もし、14時30分に間に合わなかった場合は、翌営業日の14時30分の締切時間で約定され、その日の終値で計算された基準価額によって、購入・解約の手続きが取られます。

 ここで「なぜ15時の終値をベ一スにして基準価額が計算されるのに、注文の締切時間は14時30分なのか」という疑問が生じてくるでしょう。 では、15時半とか16時を注文の締切時間に設定したら、どうなるでしょうか。実は、かつて追加型投資信託の約定は、前日の基準価額で行われていました。たとえば当日の14時30分までに注文を出せば、前日の基準価額で約定できるようになっていたのです。

 しかし、このような締切時間の設定だと、おかしなことが起こります。

 たとえば日経平均株価に連動する投資信託を買うとしましょう。前日の日経平均株価終値が1万1,000円で、今 日の14 時30 分時点の同平均株価が1万1,400円だとします。 この時点で、「大引けまで日経平均株価が大き<崩れることはない」と予測できる状況であれば、今日の1 4 時 30 分ギリギリに購入の注文を入れます。そ うすれば、今日の日経平均株価終値が、仮に1万1, 400円だ としても、前日の終値である1万 1,000円で計算された基準価額で購入できるのです。

 そして、これを翌営業日の14時30分までに解約すれば、400円のサヤが抜けます。これでは、まるで「後出しジャンケン」です。

 もちろん、投資信託を買う側からすれば、後出しジャンケンで取引できたほうが、 一見有利なように思えますが、投資信託がこうした注文を受け続けていると、投資信託の資産が徐々に毀損していきます。具体的に説明してみましょう。

 たとえば買付口数が100口として、1口当たりの基準価額が、前日が 1万 1,000円、 当日が1万1, 400円だとします。この場合、本来の買付金額は114 万円ですが、前日の基準価額での買付になるので、実際に入ってくる資金は110万円にしかなりません。 ここに生じる 4 万円の差は、基準価額の下落で穴埋めされます。つまりその投資信託の資産が希薄化されたことになります。当日の14時30分に約定され、15時時点の終値で計算された基準価額でもって購入、解約されるようになったのは、この希薄化を避けるためなのです。

 

 

海外投資の投資信託は基準価額の判明する時間が異なるケ一スも

 ただし、これはあくまでも日本国内の株式市場に投資する投賣信託のケ一スです。投資信託の中には、海外の株式・債券市場に投資するタイプもあります。 ここで問題になるのが「時差」の存在です。この時差の分だけ、注文の締切時間が変わってきます。 たとえば米国の株式を組み入れている投資信託を想定してみてください。東京とニュー ヨー クの時差は14時間です。つまり東京時間で本日14時30分は、ニ ュ ー ヨーク時間だと本日の0時30分になります。当然、まだ真夜中ですから、マー ケットは開いていません。 ニ ュ ー ヨー ク市場がオープンするのは、9時30分から16時であり、これを日本時間に当てはめると、23時30分から翌日6時までになります。 つまり、米国の株式市場に投資している投資信託の基準価額の計算は、日本時間だと翌日の6時以降にならないとできません。仮に、月曜日の14時30分に購入 ・解約の注文を出した場合、約定された基準価額が判明するのは、火曜日の6時以降になるということです。 

 海外市場に投資する投資信託の場合、どの国 ・地域かによっても、基準価額の判明する時間は異なります。米国や欧州などのように、時差が大きな国 ・地域になると、日本時間で翌日にならないと基準価額は判明しませんが、アジアなどのように、日本とほぼ時差がない国 ・地域の場合、日本のマー ケットに投資している投資信託と、基準価額の判明する時間はほとんど変わりません。